オフシーズン真っ只中のオヤジ。
ウェーダー、ベスト、ジャケットに代表されるウェアー関係。
来たるべき出会いの為に、時には欧州の高級ブランドスーツ並みの値段の一張羅のアパレルを揃え。
おおよそオシャレとは縁の無さげな自分を忘れ、「あーでもないこーでもない」と、ワッペンやブローチなどでオシャレに勤しむ。
そして意味もなく部屋の中で着たりしてないかい?。
ウェーディングシューズにしてもそうだ。
「リーガルシューズは高価過ぎる」など「どの口が言ってる?」と突っ込みたくなるようなウェーディングブーツを買い、解禁など遥か先なのに部屋や玄関で履いてみたりする。
ロッドやリールなど、へたすりゃ愛車の車検代さえ凌駕する。
納得させるべき理由を列挙し、譲れない一線を引き、買った後の締まりの無いニタリ顔も容易に想像できる。
その際の多くは、「銘木」や「杢目」など財務省に価値観の共有が得られにくい項目については敢えて口にせず、
メカに疎い相手には理解できない性能的な面をことさら強調し、さも必須スペックであるかの如く列挙熱弁。
時には「コレが無いとAA君と同じ所に行けないんだよ」とか「BB君と一緒に行くにはコレが必要なんだ」とか、
最終的には「CC君も持ってるし、けっこうみんな持ってるんだよね」など、駄々っ子の如き言葉まで発したりして。
もしくは、コツコツ密かに貯めた小遣いを投入し、実は数段アップグレードさせたタックルを、
さも、何も変わってないが如く素知らぬ顔をして並べていたり?(笑)
ランディングネットに至っては、その存在意義というか、魚を掬う道具という本来の目的すら見失っているのでは?。
銘木やスタッグになると、可愛い子や綺麗な子を撮影する為の額縁としての意味合いの方が強いと思う。
「そうだ!額縁を持参すればいいんだよ!」
ランディングネットと額縁の1個2役と考えると、数万円のネットも自分を納得させるに十分な理由となる。
相手(魚)に直接プレゼンするルアーは特に重要だ。
どんな動きが良い?どんな色に反応高い?と、相手の好みを徹底リサーチ。
(奥様や彼女への誕生日プレゼントより熱心に選んでたりして?)
自分の食事より高額なそれらを、計画的に、そして衝動的に買ってしまうのも性であろう。
ルアーの拘りもある領域に達すると、芸術的な美しさと艶かしさで、女性に老舗フレンチをご馳走するような金額に達する事も少なくない。
レア品と称され入手困難なそれらに出会ってしまった時のオヤジ達は、少年の様に眼をキラキラ輝かせながら選択を迫られる事となる。
ルアーの艶やかな魅力とプライスタグの数字を天秤にかけ、さも冷静に考えてるようなオヤジ達であるが、
大抵の場合は、自由になる諭吉の数、そして購買に対して一抹の抵抗を示す自分の良心を納得させているに過ぎない。
どんなに悪魔と天使の囁きに葛藤しようが、「今買わなければ次は?」という一言だけで最初から答えは出ているのである。
買い込んだルアー達を、整理整頓と称しながら、女性のアクセサリーケースの如く並べ、
店舗ディスプレーのプロデューサーにでも変身したかのように「あーデモナイ、こーデモナイ」と自己満足が充たされるまで幾度も並べ替えて悦に入りながら冬眠を続ける。
禁漁期も後半戦になり「解禁」の言葉もチラホラ聞こえだすと、渓流パラノイアの禁断症状が極まってくる。
幼児が船や潜水艦のオモチャで遊ぶように湯船で泳がしたり、飛行機のオモチャのように指で摘まみ空中を泳がし妄想にふける事も、禁断時期の症状の1つであると同時に、症状を緩和させる対処療法の一つである事と経験された人も多いのでは?。
解禁が近付くと、わざとらしい程の家庭サービスに努め、ちょっと背伸びしたレストランに連れて行ったりするのも、この時期に多く見られる行動だったりする。
さぁ!いよいよ解禁だ。
仕事なら上司に文句の1つも言いたくなるような深夜や早朝、
そんな時間でも鼻歌など歌いながらウキウキで車を滑り出させるHighな気持ち。
まるで彼女と二人だけの秘密の待ち合わせ場所に向かって車を走らせている昂ぶりだ。
「今日はどんなテンションかな?どんなアピールが良いかな?」
目的の場所に着くと、逸る気持ちで着替えをすませ、足を進める。
ここからは大人の駆け引きゲーム開始だ!
1本鞭の如きロッドを振り、相手を焦らすかのようにルアーを操り、相手のスイッチを入れてやろうとする。
しかしながら、遊んでるつもりが、興味を示し着いてきてくれるだけで立場逆転だ、
オヤジは可愛い子にはカラッキシ弱いのである、相手にいいように遊ばれる。
否、遊んでもらってるのだ。
チラッと恥ずかしげに顔を見せてくれたり、その艶かしい背中を見せ付けられたらもうメロメロだ。
フックを咥えてくれた時にゃ、心の中でガッツポーズ!。
「やっと誘えた相手を逃がしてなるものか!」と、
強引に引き寄せる者、巧に優しく誘なう者、手中にするまでのやり取りを楽しむ者。
ランディングし、キャッチした瞬間、「ヨッシャー!!」と叫ぶ者もいるだろう。
自らの手を相手の体温に合わせる為に冷水に浸し、その身体を優しく手の平に触れた時、それまでの全てがこの瞬間の為の過程となる。
敢えてここで、世の釣り男達に問う!
もしムッチャ可愛い子から 「ごめんね、今日はこのまま帰らせて」と潤んだ眼でお願いされたらどお?
まるで此方の心を見透かされたが如く、唯一無二の1尾が足元で可愛くチョンと軽いキスバイト1つで踵を返し去って行ってしまったら?
もし足元まで寄せた唯一無二の1尾が、イヤイヤとバシャバシャと外して逃げ帰ってしまったら?
そこには優しい男であり過ぎた故に、真っ白に燃え尽き、灰になった男を見ることが出来るだろう。
恥じらいの領域を超越した「あぁ~~!!」と渓谷にこだまする絶叫とともに、その身を捩じらせ悶絶。
次の瞬間、何かを放出してしまったかのような、放心とも脱力感ともつかない感覚に崩れ落ちる。
渓流ルアーとは「High」になるのと「灰」になるのとは紙一重、
まるで肉食系オヤジのイケナイ恋愛の如き魅力に満ち溢れていると思うのは俺だけだろうか。
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